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2023年IWC/日本共同北太平洋鯨類目視調査の終了について
−IWC/POWER調査航海:調査船の入港−


令和5年10月3日
指定鯨類科学調査法人
(一財)日本鯨類研究所


1 経緯

本調査はIWC(国際捕鯨委員会)と我が国が共同で実施しているもので、IWCでは通称 IWC-POWER (International Whaling Commission-Pacific Ocean Whale and Ecosystem Research )と呼ばれています。 この調査は2009年度まで南極海で行われていた世界的な成功例として高い評価を得ているIWCの調査計画IWC/SOWER (International Whaling Commission/Southern Ocean Whale and Ecosystem Research:南大洋鯨類生態系調査、1996/97年度〜2009/2010年度)での経験と実績を踏まえ、そのノウハウ等を活用して、IWC科学委員会(IWC/SC)の主要研究課題に則って、2010年度より実施されています。

昨年までの13年間の調査では、過去数十年にわたって広域的な鯨類目視調査が実施されていなかった北緯40度以北のアラスカ湾海域において多数のナガスクジラやイワシクジラが発見されたほか、北緯40度以南の海域では多数のニタリクジラやマッコウクジラが発見され、これら鯨種の客観的な資源評価に貢献する貴重なデータが収集されてきました。 また、希少種であるシロナガスクジラやセミクジラの分布情報も収集されてきました。

今回は、その第14回目の調査航海として、アラスカ半島及びアリューシャン列島南側海域(米国の排他的経済水域を除く北緯40度線以北、180度線以東、西経155 度線以西の海域)を対象に、米国と日本からそれぞれ2名、合計4名の国際調査員により、7月28日から10月5日にかけて調査が実施されました。 本海域は 2010、2011年度にも調査が実施されましたが、今回は新たに、見逃し率に関する情報、鳴音録音実験やシロナガスクジラへの衛星標識実験が行われました。


2 調査計画と結果概要

この目視調査は、IWCと日本の共同調査としてIWC科学委員会がその計画の策定を行い、同委員会内に設置されたPOWER運営グループ(コンビーナー:松岡耕二・(一財)日本鯨類研究所)が計画の立案と調査の実施を主導しました。 調査は当研究所が水産庁から委託を受け、国立大学法人東京海洋大学、米国NOAA/AFSC(海洋大気庁/アラスカ水産科学センター)等の関係研究機関と協力しながら実施されました。

調査海域ではナガスクジラ、イワシクジラが多数発見され、同資源の頑健さがあらためて示唆されました。 また、調査海域ではシロナガスクジラが9群発見され、同資源の順調な回復も示唆された他、希少種であるセミクジラが発見されるなど貴重なデータが収集されました。 発見したクジラに対しては、個体識別写真の撮影や DNA 分析用のバイオプシー・サンプル(表皮標本)採取、移動及び潜水行動を記録する衛星標識の装着を行いました。 調査結果の詳細は IWC/SC 年次会議などの国際会議等で発表されます(結果は速報による暫定値)。


2.1 主要調査目的

(1) イワシクジラ、ザトウクジラ及びコククジラの詳細資源評価に関する情報の収集

(2) 希少種であるセミクジラ及びシロナガスクジラの分布、系群構造に関する情報の収集

(3) 資源情報が不足しているその他の鯨類資源について資源量と系群構造に関する情報の収集

(4) 本調査の中長期計画を策定するために必要な海洋データ(海水温、漂流物等)を含む基礎情報の収集


2.2. 航海期間

2023年7月28日−10月5日(70日間)


2.3. 調査海域

米国の排他的経済水域を除く北緯40度以北、180度以東、西経155度以西の海域(図1)。 アラスカのダッチハーバー港に寄港して米国調査員の乗下船や調査資材の積下ろしを行いました。


2023調査海域図

図1. 2023年の調査海域(緑色)とその調査コース(青線)。


2.4. 国際調査員

 IWC科学委員会が指名した下記の調査員によって調査が行われました。

村瀬弘人; 調査団長、日本・東京海洋大学(IWC/POWER運営グループ)

Jessica Crance; 米国・NOAA/AFSC(海洋大気庁/アラスカ水産科学センター)

Bernardo Alps; 米国・NOAA/SWFSC(海洋大気庁/南西水産科学センター)

吉村 勇; 日本・IWC選任国際調査員


2.5. 調査船 :

第二勇新丸(747 トン、(株)共同船舶所属、大越親正船長以下 16 名)


2.6. 総探索距離 :

1,578 海里 (2,973 km)


2.7. 主要な発見鯨種 :

セミクジラ 4群5頭、シロナガスクジラ 9群9頭、ナガスクジラ 115群192頭、イワシクジラ 63群82頭、ミンククジラ 2群2頭、ザトウクジラ 1群1頭、マッコウクジラ 25群26頭、シャチ 6群13頭


2.8. 実験結果:

(1)個体識別写真撮影(撮影個体数)
セミクジラ 4頭、シロナガスクジラ 7頭、ナガスクジラ 30頭、イワシクジラ 9頭

(2)バイオプシー採取(個体数)
シロナガスクジラ 4頭、ナガスクジラ 8頭、イワシクジラ 7頭

(3)鳴音録音
143地点で538時間の音響モニタリングを実施しセミクジラ、シロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、ザトウクジラ、マッコウクジラ、シャチなどの鳴音録音を行いました。

(4)衛星標識(個体数)
回遊経路を明らかにすることを目的とした衛星標識をシロナガスクジラ 4頭に装着しました。 また、潜水行動を明らかにすることを目的とした衛星標識をナガスクジラ 5頭、イワシクジラ 5頭に装着しました。

(5)回収型長期鳴音録音ブイ(投下数)
アメリカの海洋大気庁南西漁業科学センターの依頼で、鯨類の鳴音録音を目的とした回収型の長期鳴音録音ブイを調査海域内で2台投下しました。

(6)海洋漂流物(発見数)
調査海域において95件の海洋漂流物を記録しました。


写真:2023年度調査の様子

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浮上したシロナガスクジラ 希少種のセミクジラ 最も発見が多かったナガスクジラ
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回収型長期鳴音録音ブイを投下する調査員 トップバレルから鯨種を確認する観察員 国際調査員と乗組員(ダッチハーバーにて)

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