2020/2021年度南極海鯨類資源調査（JASS-A: Japanese Abundance and Stock-structure Surveys in the Antarctic）の終了について

令和3年3月22日
指定鯨類科学調査法人
一般財団法人日本鯨類研究所

１　経緯

本調査は、日本国政府が従来実施してきた南極海における鯨類資源の持続的利用を目的とした資源調査（非致死的調査）を継続するもので、令和元年6月30日の国際捕鯨委員会（IWC）脱退後、南極海における第2回目の調査航海となります。本年度の調査は、南極海において調査船1隻により鯨類目視調査、バイオプシー試料の採集、衛星標識の装着や海洋観測などを行いました。

調査目的は、大型鯨類の資源量推定に必要な目視データを収集すること、各種実験(個体識別写真の撮影、バイオプシー試料の採集、衛星標識の装着等)を実施し、鯨類の資源管理に有用な移動経路や繁殖海域の推定および個体や系群の識別情報を収集すること、さらに、海洋観測を行い鯨類の生息環境を明らかにすることなど多岐にわたっています。本調査の結果はIWCや南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)といった国際機関の科学委員会に提供する予定です。

調査船第二勇新丸は、令和2年12月4日に宮城県塩釜港より出港し、令和3年1月10日から2月6日まで28日間にわたり、南緯60度以南の南極海において鯨類目視調査やバイオプシー試料の採集などを実施して、3月22日に同港に帰港しました。

２　調査計画と結果概要

本調査は、水産庁の協力の下に、当研究所が中心となって計画の立案と実施並びに結果の分析を主導しています。

本年度の南極海調査では、昨年度の調査で未調査となっていた南緯60度以南の南極海第III区西側海域の東側部分を完全にカバーし、鯨類の資源量推定に必要な一貫性のある目視データを含む非致死的調査データの収集に成功しました。調査からは、従来の知見と同様、シロナガスクジラをはじめ、クロミンククジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラの複数鯨種が同一海域を摂餌海域として利用していることや、ナガスクジラ及びザトウクジラの資源の回復傾向がより明らかになりました。さらに、希少種とされるシロナガスクジラも複数発見され、同資源の順調な回復が示唆されました。

2.1　主要調査目的：

(1)　南極海における大型鯨類の資源量およびそのトレンドの研究

(2)　南極海における大型鯨類の分布、回遊ならびに系群構造の研究

2.2.　航海期間と調査期間：

航海日数：

令和2年12月4日(塩釜港出港)～令和3年3月22日(塩釜港入港) 109日間

調査日数 (調査海域)：

令和3年1月10日(開始)～令和3年2月6日(終了) 28日間

2.3.　調査海域

本年度の調査範囲は、IWCの管理海区の一つ、第III区西側海域の一部で、南緯60度以南の東経15度から35度までの海域（図1）です。また、調査海域への往復航海の海域（南緯10度以南）において中低緯度目視調査を実施しました。

図1. JASS-A調査海域、青枠：全調査海域、桃色：本年度の調査海域

2.4.　調査員：

磯田辰也（調査団長：（一財）日本鯨類研究所　主任研究員）以下5名

2.5.　調査船 :

第二勇新丸（747トン、共同船舶(株)所属、阿部敦男船長以下17名）

磯田調査団長、阿部船長以下22名が乗船し、調査航海に従事しました。

2.6.　実施機関 :

指定鯨類科学調査法人・一般財団法人日本鯨類研究所

2.7.　総探索距離（中低緯度目視調査を含む）：

3,615.2海里（約6,695.4km）

2.8.　主要な発見鯨種（中低緯度目視調査を含む）：

シロナガスクジラ 24群 29頭、ナガスクジラ 153群 257頭、クロミンククジラ 53群 122頭、ザトウクジラ 384群 739頭、ニタリクジラ 1群 1頭、マッコウクジラ 9群 9頭、シャチ 4群 13頭、ミナミトックリクジラ 7群 20頭

2.9.　各種実験・観測結果：

(1) 距離角度推定実験
目視観察者ごとの鯨類の発見角度と距離の推定精度を求めるために距離角度推定予行演習ならびに本実験を実施しました。

(2) 個体識別写真撮影（個体数）
シロナガスクジラ 20頭、ザトウクジラ 41頭、シャチ 1頭

(3) バイオプシー試料採集（個体数）
シロナガスクジラ 8頭、ナガスクジラ 15頭、クロミンククジラ 14頭、ザトウクジラ 16頭、ニタリクジラ 1頭

(4) 衛星標識装着実験
ナガスクジラ 7頭、クロミンククジラ 10頭に対して衛星標識を装着しました。

(5) XCTD(投下式塩分水温深度計)による海洋観測
観測点 99ヵ所で水深0m～1,850mまでの水温と塩分濃度を測定しました。

(6) ドローンを活用した予備実験
ドローンを使用して鯨類の体長計測、肥満度計測および遊泳行動の観察を目的とした予備的な撮影実験を行いました。シロナガスクジラの撮影に成功した他、ナガスクジラ、クロミンククジラ、ザトウクジラ等を撮影しました。

(7) 潜水行動タグの装着予備実験
鯨類の潜水行動を記録するデータロガーの装着技術の開発を目的とした予備的な実験を行い、ザトウクジラ2頭に装着しました。

(8) 海洋漂流物（マリンデブリ）観察
本年度は、南極海の調査海域において、海洋漂流物の発見はありませんでした。

写真：2020/2021年度南極海鯨類資源調査(JASS-A)の様子



シロナガスクジラ(ドローンにより撮影)	ナガスクジラ (右顎が白いのが特徴、ドローンにより撮影)	クロミンククジラ(ドローンにより撮影)

ザトウクジラ(ドローンにより撮影)	バイオプシー実験の様子(シロナガスクジラ)	バイオプシー実験で採取されたクジラの皮膚片

個体識別写真の撮影(シロナガスクジラ)	個体識別写真の一例(ザトウクジラ)	海氷の中を航行する第二勇新丸	XCTDによる海洋観測