1. はじめに
この度、夏季(8-9月)の北西太平洋における鯨類資源調査を実施しました。 昨年7月1日の大型鯨類を対象とする捕鯨業の再開に伴い、北西太平洋における鯨類の資源状態の把握は更に重要度を増しています。 このため、今年度は、イワシクジラ、ニタリクジラ及びミンククジラの資源量推定を主目的として、日本沿岸を含む北西太平洋の広い海域において、調査船3隻(調査員6名)を動員した一斉目視調査を行いました。 こうした大規模な調査は、2008年以来12年ぶりになります。 さらに、今回の調査では、科学的知見に基づく国際的な鯨類の資源管理に貢献するため、ナガスクジラやザトウクジラ及び希少種であるシロナガスクジラやセミクジラを含む大型鯨類の分布状況や系群構造把握のための情報収集も行いました。
2.調査の概要
勇新丸及び第三勇新丸は7月31日に石巻港を出港して9月24日に石巻港へ帰港、第七開洋丸は8月5日に八戸港を出港して9月18日に久里浜港へ帰港、それぞれ目視調査、自然標識撮影(注1)、バイオプシー(皮膚標本採取(注2))、衛星標識装着などの非致死的調査を実施しました。 調査海域は、調査開始時には北緯35度以北、日本沿岸から東経170度までの北西太平洋の一部海域を予定していましたが、好天に恵まれ、予定より早く調査が進捗したこともあり、東経140〜150度、北緯30〜35度(黄色の部分)においても調査を実施しました(図1) 。
図1.2020年北西太平洋鯨類資源調査における調査海域。
勇新丸(YS1)は東経150〜160度、北緯40〜48度の一部海域(赤色の海域)、第三勇新丸(YS3)は東経150〜170度、北緯35〜40度(青色の海域)及び東経140〜150度、北緯30〜35度(黄色の部分)、第七開洋丸(KY7)は東経140〜150度、北緯35〜43度の一部海域(緑色の海域)を調査した。
赤矢印は調査した方向を示し、点線の赤矢印はYS3の移動を示す。水色の線は日本EEZ線を表す。
3.調査団の編成
3.1. 調査実施機関 指定鯨類科学調査法人 日本鯨類研究所
3.2 調査船と乗組員数、計52名
目視専門船 勇 新 丸 (724 トン 葛西 英則 船長以下 16 名)
目視専門船 第三勇新丸 (742 トン 大越 親正 船長以下 16 名)
目視専門船 第七開洋丸 (649 トン 佐々木 安昭 船長以下 20 名)
3.3. 調査員
吉田 崇 (日本鯨類研究所 資源管理部門チーム長)
磯田 辰也(日本鯨類研究所 資源生物部門主任研究員)
高橋 萌 (日本鯨類研究所 資源管理部門研究員) 他3名
4.主な結果
目視調査
総探索距離 7,073海里(約13,100 km)の探索により、シロナガスクジラやナガスクジラをはじめとしたヒゲクジラ亜目6種およびマッコウクジラ、シャチなどのハクジラ亜目2種の発見情報を収集した。 最も発見群の多かった鯨種は、ニタリクジラ(320群418頭)であり、次いで、マッコウクジラ(237群598頭)、イワシクジラ(61群74頭)、ナガスクジラ(58群77頭)、シャチ(6群42頭)、シロナガスクジラ(4群4頭)、ミンククジラ(2群2頭)、ザトウクジラ(2群2頭)の順であった。
各実験結果
シロナガスクジラ4個体、ザトウクジラ2個体、シャチ4個体の自然標識を撮影した。 バイオプシーは、シロナガスクジラ2個体、ナガスクジラ12個体、イワシクジラ15個体、ザトウクジラ2個体から標本を採取した。 衛星標識については、ナガスクジラ6個体、イワシクジラ11個体へそれぞれ装着を行った。
まとめ
今期調査で得られたデータ及び標本は、今後、国内外の研究機関との共同研究により分析及び解析が行われ、北西太平洋における鯨類の資源量推定に活用されるほか、系群構造の解明等の鯨類資源に関する研究の進展に寄与することが期待される。 研究成果についての詳細は、来年以降のIWC/SCをはじめとする国際会議等において報告し、関連学会などで発表していく予定である。
(注1) 鯨の個体識別が可能となる外見上の特徴(模様、ヒレの形状、傷跡等)を写真に記録するもの。
(注2) DNA等を分析するため、鯨の表皮の一部を採取するもの。