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米大学のDNAを用いたクロミンククジラ初期資源推定論文について


1.「Are Antarctic minke whales unusually abundant because of 20th century whaling?」の概要

(1) 掲載誌:MOLECULAR ECOLOGY
(2) 著 者:Kristen C. Ruegg(スタンフォード大学)、Eric C. Anderson(米国海洋水産局, カリフォルニア大学)、C. Scott Baker(オレゴン州立大学)他
(3) 概 要:日本の市場で入手した52 検体のクロミンククジラ肉の核DNAを分析した結果、クロミンククジラの初期資源は67万(95%信頼区間37.4万〜115万)と推定され、現在推定されている資源量と同程度あるいはそれを上回っていることが判明し、現在の南極海のクロミンククジラ資源が非常に豊富であるとは言えない。


2.鯨研の反論の概要

遺伝情報を用いた長期的な鯨類資源量推定については、既に2003年、2009年のIWC科学委員会で議論されている。そして、
(1) この手法は大きな誤差を伴い、とりわけ実際の個体数を推定するのは困難。
(2) 長期的な資源量を推定するのには利用されるが、「捕鯨が始まる前」といった時点を特定して資源量を推定することはできず、資源管理には用いることはできない。
ことが共通認識となっている。


3.「Are Antarctic minke whales unusually abundant because of 20th century whaling?」にかかる日本鯨類研究所の反論

Rueggらによる本研究は、52検体のクロミンククジラから11の核遺伝子のマーカーの配列から捕鯨開始前のクロミンククジラの長期的資源量を推定するものである。彼らは、推定値67万は現在の推定資源量と同程度あるいはそれ以上であり、クロミンククジラ資源が増加しているとの認識は間違っていると結論づけている。本論文と似た論文は2009年のIWC科学委員会でも議論されている。

遺伝子分析により北大西洋の大型ヒゲクジラの長期的資源量を推定する論文(Romanと Palumbi (2003))が既にIWC科学委員会で議論されている。IWC科学委員会はこのような新しい分析手法を歓迎するが、在来手法に比べて初期資源サイズの確実性が低いことを認めざるを得ない。2004年の科学委員会で、不確実性に関する作業が行われ、現在も行われている。

遺伝子情報を用いた長期的な資源解析は、二つの重要な要素に依存している。一つは、遺伝的多様性を推定する前提(例えば理想集団の大きさに基づく)であり、もう一つは、理想集団の大きさから推定資源量を導き出すための前提である。Rueggらの研究は、数年前、遺伝的多様性を推定するための科学委員会で確認された不確実性を論ずるという意味では価値がある。しかしその結果は不確実なものである。例えば、彼らの核マーカーのテスト結果は中立性と平衡性に一致する。これを基に、彼らは遺伝的多様性を集団の成長率を0として、すなわち資源サイズは一定と想定して見積もっているが、これは明らかにPalumbiや他の著者によるミトコンドリアDNAを用いた研究と矛盾する。

二つ目の要素について、昨年のIWC科学委員会において、実際の個体数の推定に遺伝的手法を用いる際には注意が必要であるむね言及されている。実際値の推定は、理想集団の大きさと成熟個体の個体数の比にも敏感である。IWC科学委員会は、目視調査による資源量推定は氷によって確認できない鯨により困難化することにも言及している。

上記した不確実性についてはさておき、進化時間レベルに基づいて推定された値が鯨の管理に有効であるかという問題がある。しかし、このような長期的推定値は、短い時間に適用することができないので、南極海のクロミンククジラ捕獲が始まった時点の資源量を見積もることはできない。従って、管理目的には有益ではない。要は、彼らの長期的な個体数の推定結果は管理目的には利用できない。

本論文の一部で著者らは「漁業との競争を軽減するため及び過剰捕獲した鯨類の回復をサポートするためクロミンククジラを間引くことを主張する組織がある」としている。これは南極海で行われているJARPAIIの誤解に過ぎない。JARPAIIの目的の一つは、「鯨類の種間競争と管理目標のモデル構築」である。この目標の下、Rueggら論文で言及されている「ナンキョクオキアミ余剰仮説」に加えて、いくつか他の仮説を、生態系モデルを開発しながらテストを行っている。JARPAIIは資源量や胃内容物といった重要なデータを提供することにより、生態系モデルの進歩に貢献している。


2009年のIWC科学委員会報告を読む
JARPAII調査計画を読む

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